国道沿いのフラットな直線をひたすら走るが、今までの山間部とは違い景色が味気なくて疲労感が増してくる。横を過ぎていく車からは、雨の中なのに窓を開けて声援送ってくれるドライバーが多い。必死に腕振りしながら自分と闘っている富山の上田さんの姿が見えてくる。「どうしました?」「体が冷えてしまって…股関節を痛めたみたいで走れないよ…」いつもの明るい笑顔はなく顔が曇っている。断腸の思いでエールを送って先に行かせてもらう。85kmの第3関門の柿崎町役場レストエイドに入るが、通過時間はどうなのか?自分はどんなペースで走れてるのか?時計を確認する余裕もなくなっている。どうにか関門時間はクリアーしているみたいだ。食欲も減退しているので、温かい麦茶だけ飲んでエイドを出る。
国道をしばらく走って行くと、突き当たりのT字路に立っている誘導員が、「残り15km切ってるよ!後は平坦な道だから頑張れ!」と声を掛けてくれる。T字路を左に曲がって行くと突然視界に、荒々しく力強い波しぶきをたてている日本海の大パノラマが広がってくる。「お〜っ!すっげ〜なー!!」晴れていれば夕日が奇麗なスポットだが、台風の影響で空はどんより曇っている。その大海原を見た瞬間、なんだか自然に心の底から熱いものが込み上げてくる。ここまで気力、体力も消耗しきって11時間近くも走って来て、ゴール出来るか常に不安な気持ちだったが、雄大な日本海の景観を見た時に、「やっとここまで来たぞ〜!あと少しでなんとかゴールだ!頑張れ!」と消えそうだった闘志がまたメラメラと燃えてきて不思議と足に力が入ってくる。
こんなに感情が昂ぶって目頭が熱くなったのって久しくないよなー。隣りのランナーに「あともう少しの我慢!頑張りましょう!」と声を掛けると、彼も目を真っ赤にしながら走っている。薄暗くなった海岸線のコース上に、投光器が輝いているのがすごく奇麗。何処にそんな力が残っていたのか?かなりのペースアップでエイドも寄らずに走っていく。
海岸線のコースから、潟町の街中に入ると沿道の応援がかなり多くなってくる。
90km過ぎた所に「海賊汁」の大きな看板が見えてくる。「ここまで来てこれ食べたかったんだよなー」迷わずにエイドに入り、椅子に座ってたくさんの海の幸が入った海賊汁を頂く。「く〜っ!体の芯から温まって美味い!!」一気に飲み干して、お礼を言って後にする。
でも、ウルトラマラソンはそんなに甘いもんじゃなかった。残り5kmを切って頚城野村の田園地帯に入ると、ゴールまであと僅かにもかかわらず、だんだんペースが落ちてくる。日も暮れて、真っ暗な農道コースにはランナー誘導用の投光器だけが光っている。ゴールのくびき野希望館がどの方向にあるのか全く分からない。この辺りから風雨が強くなり、横殴りの雨が顔を打ってくる。
ここまでランニングシューズを濡らさないように、水溜まりはよけて走っていたが、よける力が無くなったみたいでバシャバシャおかまいなし。行けどもゴールが見えてこないのは精神的に辛い。誘導員に会うたびに、「あと何キロ?」「ゴールはどっち?」と聞きながら走る。そのうち最後に残っていた力も枯渇したみたいで、突然足に力が入らなくなってその場に立ち止まってしまう。もう歩いても制限時間内にゴールできそうだが、今夏の北海道マラソンで、自分に負けて何度か歩いてしまい悔しい思いをしたので「何やってるんだ!絶対走りきるぞー!」と自分を鼓舞して足を前に出していく。